不思議な体験・孤独との闘い~クリーンルーム~
クリーンルームにいる間、不思議な夢を見たり、体験をした。
ドクターや看護師さんのオーラのような、色のついたエネルギーが見えたり、人のエネルギーが残り香のように、部屋に残っているのを感じた。
物のエネルギーも感じて、物質が呼吸をしている生き物のように感じた。
窓も開けられない、閉鎖された空間にいると、感覚機能が鋭敏になった。
今まで見えたり感じたりしなかった、エネルギーを敏感に感じるようになった。
クリーンルームの空間は、あの世とこの世の境界線が薄い感じで、窓のカーテンの向こう側には、あの世の世界があるような、すごく近い感覚がいつもあった。
自分の意識が死の方へ向いて、もうこんなに治療が辛いなら、死んだ方が楽になれるとか
ネガティブな感情でいっぱいでいると、死や地獄の夢を見たり、金縛りにあったり怖い体験をした。
反対に、神様やご先祖様、「生きる」ということに、強く意識が向いている時は、そばに誰かが見守ってくれているのを感じていた。
ノートや携帯に自分の気持ちや、願い事を書いたりしている時、常に誰かが側にいて、それを読んでいるような気配を感じて、不思議とそのノートに書いた願いが叶っていた。
だからもう怖い体験はしたくないと、いつも自分の意識に気を付けて、自分が元気になっている姿を強く思い描いていた。
ちょうど、クリーンに入って2週間近くになる頃、タレントの吉井怜さんの闘病記のドラマが放送された。
2000年に急性骨髄性白血病を発症し、骨髄移植をされて、元気になって仕事に復帰されていた。
ドラマは自分の状況と重なりすぎて、見ていてすごくblueになってしまったけど、ロングヘアーになって、骨髄移植されたとは思えないくらい、元気で綺麗な吉井怜さんの姿を見て、とても勇気づけられた。
今の自分の体は、沢山の内出血のアザや針のあと、鎖骨にはIVHカテーテル、脱毛。
体も心もボロボロで、とても元の姿に戻れるのが想像できなかったけど、吉井怜さんが元気にTVに出てる姿を見て、「自分も元に戻れる!」と希望が持てた。
母親が吉井怜さんの闘病記の本を、買ってきてくれて、読んだ。
また渡辺謙さんがゴールデングローブ賞に、ノミネートされたニュースが入った。
私には、お二人の元気な姿が希望の星だった。
看護師さんが、白血病の本を持ってきてくれたけど、やっぱり実際に経験した人の言葉や元気な姿は、何よりも大きな力をもらえた。
いつしかもう12月。
Xmasには外泊できるかもしれないと聞いて、外泊を楽しみに頑張ろうと思った。
WBC 1100
Hb 7.4
PLT 1.8
GOT 17
GPT 26
LDH 153
PT 66%
APTT 42.1
Fib 327
D-D 0.2
Blast 0
CRP 2.3
(Day 13)
クリーンルームにずっといると、一人世界から取り残されているようで、すごく孤独だと感じた。
自分を支えるものが何もない。
死生観も真剣に考えたことがなくて、ただただ死という未知の世界に脅えていた。
こんな時に、心の支えになるものがあればと思った。
自分には本当に心から通じ合える、支えになる存在がないと思った。
今までの人生で、うわべの人間関係しか、築いてこれなかったんだと。
それまでは、誰かを必要としていなくて、悩みも自分一人で、解決できると思っていた。
白血病になって、初めて自分一人では、乗り越えられないと思った。
家族や周りの人のサポートが必要だと。
家族とのことは、色々問題があって、特に母親とは、険悪なムードになることが多くあった。
お互いのストレスが溜まってきて、母親は私に、不平不満をヒステリックにぶつけてくるようになった。
「あんたのせいでみんな大変な思いしてるんだから!」
「あんたを出産で入院してた時は、ほとんど誰にも来てもらえなかった」
クリーン生活が2週間も経つと、ストレスがMAXになって、胃痛、めまい、不眠、孤独感、焦燥感、閉塞感で、発狂しそうなくらい辛かった。
出産の入院と、白血病の入院治療とは、また違うのに、全く自分の辛さをわかってもらえないと、母親と会話すること自体が、ストレスになっていった。
一度、妊婦の看護師さんにも、
「私はこれから出産して、その後も子育てで大変だけど、ray*ちゃんはここを退院したら
もう元気に好きなことできるんだからいいよね」と言われたことがあった。
後からわざわざ、「さっきはあんなこと言ってゴメン」と、謝りに来てくれたけど、看護師さんでも、そんな風に思うんだとびっくりした。
白血病患者の気持ち、抗がん剤治療の辛さ、死の恐怖、クリーンルームに閉じ込められる辛さは、経験した人にしかわからない。
どうせ話したところで、誰も私の気持ちなんてわからない。
周りの無神経な言動に傷ついて、どんどん心を閉ざすようになった。
看護師さんからは
「殻に閉じこもっている」
「もっと何でも話して」
「辛いときには辛いって言って」
「他の患者さんもみんな頑張っているんだから」
と言われたけど、同年代の健康な看護師さんたちには、私の気持ちなんてわからないと思った。
うわべの「頑張って」の言葉が、他人事のように冷たく聞こえた。
ただ、ドクターだけは、他の人と少し違っていた。
言葉は多くないけど、なぜか心が通じているように感じた。
「人よりも少し回り道をしたと思ったらいい」
「半年なんてあっという間、焦らなくていい」
「退院したらまた元気な人と同じように過ごせる」
「もう二度と入院させない、そう思って治療してる」
そんな言葉をくれた。
毎日、波のように襲ってくる感情。
恐怖、孤独、不安、絶望、焦り、、、
どうやったら乗り越えられるのかわからなくて、暗闇の中で一人もがいていた。
でも、きっとこの先生なら、治してくれる。
また元気になって、元の生活に戻れるようになる。
そう信じられる。
だから頑張って、この試練を乗り越えたい。
毎日の恐怖心、孤独感、自分の弱さを乗り越えるだけ。
強くなりたい…
ただそう願った。