クリーンルームトラウマ~治療と死の恐怖~



「もう私たちではケアしきれないから、精神科のある病院に転院するか、臨床心理士に来てもらうかした方がいいと思う」

リーダーの看護師さんからそう言われた。

外泊から戻ってきてトラウマから、PTSD、パニック発作のような症状が出てきた。

「もう治療は無理だし止めたい」と言った私に、

看護師さんは、
「ray*さんのような感受性の強い患者さんは、今までに看たことがことがなくてわからないから、別の専門家のいる病院に、転院した方がいいと思う」と提案してきた。


すごくショックだった。

今の不安定な状態が和らぐならそうしたいけど、多分そんなことをしても、この強い恐怖は和らがないとわかっていた。


看護師さんは、私のことをそういう風に見ていたんだと、見離されたように感じた。


それに、治療途中で病院が変わること、Dr.や看護師さんが変わることは、不安に思った。

いつも明るく励ましてくれていたのに、やっぱり私の気持ち、白血病患者の精神的つらさは、理解されていなかったんだなと思った。


それともこんなに恐怖に襲われるのは私だけなの?

みんな白血病の死の恐怖や、クリーンルーム(無菌室)の閉鎖空間、強い抗がん剤治療、副作用など平気なの?


治療も怖いし死ぬのも怖い。

どこにも逃げ場がなくて、どうしていいかわからない。

このままでは精神が壊れてしまうよ。

私には白血病治療は、精神的に無理なんだと絶望した。


昔ならM3(APL)は、とても死の確率が高い病気だった。

今は医療が進んで特効薬が開発されたけれど、あんなクリーンルームの環境で、あんなにきつい抗がん剤の投与をして、生き延びても心も体もダメージが強すぎる。

家に帰りたい。

もう治療できずに死んでしまうのだと思った。

絶望のどん底にまで落っこちてしまった――


一人絶望的な気持ちでいると、私と看護師さんの話を聞いていた、同部屋の上品な血液疾患のお婆さんから声をかけられた。

「治療を止めるなんて言わないで」

「私はもう歳だから移植や強い治療はできないけど、あなたはまだ若いから、治療ができる」

「治るんだから」


お婆さんの強くて優しい言葉に涙が出た。


全く他人なのに、いつも私のことをよく見ていてくれていた。

冷たい飲み物をよく飲んでいると、「体を冷やさないように気を付けて」と、いろいろ言葉をかけてくれていた。

「治療を止めるとか言って、ごめんなさい」

なんでかわからないけど、お婆さんの言葉が胸に響いた。

お婆さんは、高齢で寝たきりで自由に動けない。

きっと、つらくて大変だろうけど、それでも私に希望を持つように、心からの強い励ましの言葉をかけてくれた。

お婆さんと私、二人で泣いていた。


その後、一人デイルーム(休憩所)にいると、主治医のDr.が来て、二人でゆっくり話をした。


「何がつらい?」と、Dr.が優しく聞いてくれた。

クリーンの閉鎖環境や抗がん剤の副作用のことを話すと、
「クリーンから出たくなったら出てもいいよ」とDr.が言ってくれた。

「しっかりマスクをして手洗いうがい消毒、感染に気をつければいい」

「病院によっては病棟のフロア全体がクリーンレベルに管理されて、個室に閉鎖されずにいる病院もあるから」

「シャワー室も清掃が終わった一番最初なら綺麗だから使用したらいい」

「吐き気を抑える薬も増やす」

「最初の寛解導入はきつい治療だったけど、地固めはそんなにきつくない」

「寛解導入の時は、DICの緊急入院で、即クリーンルームで治療が始まったけど、次の地固め療法は抗がん剤投与は大部屋で、白血球が下がってからのクリーン入室になる」

「加熱食でなくて普通食で生ものだけ避けて食べたらいい」


Dr.の言葉で真っ暗闇だった心に光が射した。

何より一番トラウマになってしまった。
クリーンルームから出てもいいと、特別に配慮してくれて、すごく心が楽になった。


看護師さんに転院を提案されたことをDr.に話したら
「なんでそんなことを言うんだと思った」と怒っていた。

「白血病の患者さんは誰しも、恐怖で精神が不安定になることはあるから」

「めげて当たり前」

「みんな怖いよ、みんな同じ」

そう優しく言ってくれた

自分の心が弱いからダメなんだと絶望していたけど、心がパァーっと軽くなって、頑張ろうと思えた。

私のことを理解してくれる存在。

なんとか苦痛を取り除いて、治療してあげたいと思ってくれている先生の存在が、私を絶望から救ってくれた。


どん底から上がった私を見て、看護師さんから、「先生のパワーだね」「また一緒に頑張ろう」と励ましてくれた。

あと3回の地固め療法を頑張って、退院したいと思った。


Dr.の不思議なパワーを感じた。

色々と心の内を聞いてもらえるだけで、すごく癒されて楽になる。

普段無口だけど、心が通じ合う人だと思った。

この先生がいる限り、なんとか頑張れるかもと、希望が持てた。


WBC  1400
Hb       8.7
PLT     44.4
(Day 29)


まだデータも回復していなくて、精神的にもすぐ地固め療法に入れるような状態でないために、また外泊になった。

病院にいるとどうしてもblueになるため、Dr.も看護師さんも、私は外泊をした方が元気になるし、好きなことをして美味しいものを食べて、ちょうどXmasだしリフレッシュしてきてと、送り出してくれた。


また外泊だ!
嬉しい!

街はXmas☆
外の世界はやっぱりいい。

パフェを食べたり、Xmasの街の雰囲気を楽しめた。

家でも好きな食べ物を沢山食べて、エネルギーを充電した。


会社の人や友人知人から、本、マンガ、CD、DVD、お菓子、千羽鶴、クリスマスツリーのオブジェが届いていて、すごく嬉しかった。


あと残り3クール3ヶ月の入院治療を、どうやったら頑張れるか、自分を支えるもの、音楽、本、写真などを準備した。


「体が元気になると、心も元気になるよ!」と看護師さんに言われたけど、本当にその通りだ。

データが回復して体が元気になってくると、心も元気になってきた。


懐かしい友人と久々に電話で話した。

向こうもなんて言っていいのか困惑しているようで、今の自分とは、違う世界なんだなと距離を感じた。


ネットで調べて見つけた、心理カウンセラーの無料電話相談。

試しにかけてみたけど、やっぱり思っていた通り、私には合わなかった。


人の心は理論や教科書に当てはめて、図れるものじゃない。

上辺の教科書通りの言葉を、口先で語っているだけで、ハートが全く感じられなかった。


私が必要としているものは、人との心からの繋がり、ハートなんだとわかった。


外泊を終えて病院に戻ってきた。

前回の時は、ブラックホールに落ちたような、どん底まで落ち込んでしまったけど、今度は大丈夫。


Dr.も看護師さんも私が治療を頑張れるように、一生懸命サポートしてくれてる。

他の患者さんたちも、白血病を克服した人の、記事の切り抜きを持ってきてくれたり、励ましてくれた。


ベッドには看護師さんからの、可愛いXmasメッセージカードが置かれていた。


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